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盛岡地方裁判所 昭和31年(ソ)1号 決定

抗告人 摂待克郎

主文

本件抗告を却下する。

訴訟費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告の要旨

抗告人は、昭和三十年十一月二十九日宮古簡易裁判所に対し、同裁判所同年(ロ)第一四八号支払命令申立事件につき訴訟上の救助を申し立てたところ、同裁判所は、同年十二月十三日右救助申立に対し救助事由の疎明なしとしてこれを却下した。

しかしながら抗告人は、右申立と同時に同裁判所に対し救助の事由たる無資力および勝訴の見込について事情を陳述し、かつ疎明として抗告人が生活保護法による被保護者であることの証明書を提出したのであるから、右申立は法定の要件を具備していること明らかであり、したがつて、これを却下した原決定は失当であるから、民事訴訟法第四百十条により抗告をする。

二、判断

まず、本件抗告状には民事訴訟用印紙法に定める所要の印紙の貼用されていないことが明らかである。したがつて本件抗告の申立は既にこの点においてその不適式であることを免れないが、いまこの点を暫く措くとしても、申立によれば、本件抗告は民事訴訟法第四百十条による通常抗告として、申し立てられたものであることが認められる。

ところで本件のように訴訟上の救助申立を却下した裁判に対する不服申立が通常抗告によるべきか、それとも即時抗告によるべきかについては、民事訴訟法第百二十四条の「本節ニ規定スル裁判ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得」との規定をめぐつて解釈の分れるところであるが、ここに「本節ニ規定スル裁判」とはあまねく救助の申立に関する裁判を指し、申立許与の裁判だけでなく、却下の裁判をも含む趣旨であることは、同条が「訴訟上ノ救助」なる節下に規定せられている点から窺い得られないこともないばかりでなく、民事訴訟法中改正法律案理由書が同条の立法理由として、「本条は救助の申立に関する裁判、救助取消の裁判又は猶予したる費用の支払を命ずる裁判等本節に規定する裁判に対する不服の申立は総て即時抗告によるべきものとし、もつて救助に関する争いの敏速なる解決を期す」と明示して、救助の申立許与の裁判であると却下の裁判であるとを区別していない点に徴しても、十分これを窺い得られるところである。また実質上からいうも、訴訟上の救助に関する裁判がその性質上迅速を当然の要請とする点等に鑑みるときは、その申立を却下した裁判に対する不服申立の手続についてもまた、申立許与の裁判に対すると同様にこれを即時抗告によらしめて、迅速な解決を計るの要こそあれ、ことさらに却下の裁判に対してだけ、前記法条の適用を除外すべき理由はない。以上の点から救助の申立を却下した裁判に対しても同条を適用し、その不服申立は即時抗告によらしむべきものと解するのが相当である。

してみると本件抗告の申立は、同法第四百十五条の制限にしたがい、原決定の告知された日であること記録により明らかである昭和三十年十二月十五日から一週間内になされることを要するところ、抗告人において右申立をした日が同月三十一日であることは記録によつて明らかであるから、結局、本件抗告の申立はこの点においてもまた、不変期間徒過後になされたものとして不適法たるを免れない。(なお抗告人は同年十二月十七日付で宮古簡易裁判所裁判官にあてて、事件照会なるはがきを出しているが、当裁判所は右は抗告とは認めない。)

はたしてそうだとすれば、本件抗告の申立は、敢て前記貼用印紙の欠缺を補正せしめるまでもなく、もはや、その不適法が治癒され得ないものとして、これを却下すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 千種達夫 須藤貢 西沢八郎)

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